夜に潜む妖怪たち-番外編 ハワイと二人のディスタンス-
ハワイと二人のディスタンス 編
幻想と欲望が渦巻く眠らない街には魑魅魍魎がいるという。
夜に潜む妖怪たち。
あなたは出会ったことがありますか?
さぁ、そろそろ妖怪が目を覚ます時間。
今回はこんな妖怪のおハナシをしましょうか。
ハワイ
「え?ハワイ?すごい~!行きたい行きたい~!」
リンをハワイに誘うと、彼女は大喜びしていた。目を見開いて。まるで子どものようだ。パスポートを持っていなかった彼女のため、パスポートも一緒に取りに行った。真新しい赤いパスポートを握りしめて、リンはまた子どもみたいに笑ったんだ。
本心
「一緒にハワイに行かない?」
佐々木が突然言ってきた。
「え?ハワイ?すごい~!行きたい行きたい~!」
軽い気持ちだった。
だって現地では他にも人がいて、2人っきりってわけじゃないみたいだしさ。旅費全部持ってくれるって言うし。パスポートまで面倒見てくれるんだよ?サイコーぢゃん。もちろん10年パスポートでおねだりしちゃうよね。
このお客さんさ、お店によく来てくれるし、気前よくてシャンパンとかもしょっちゅうおろしてくれるの。でも強引に誘ってきたりしないし、安牌な良いお客さんって感じ?だからまぁ、別部屋ならハワイくらい一緒に行ってあげてもいいかな。
え?もちろん男として見てるわけないじゃん。だっておぢさんだもん。ありえないでしょ。うちにはさ、まぁ別れたりくっついたりを繰り返してるカレシ的な?男いるしね。
ハワイでは適当に、一人の時間もらって遊ぼ~っと。あ、でもあの日本未発売のバッグ買ってもらわなきゃ。付き合ってあげるんだし、それくらい当然ぢゃない?
真実
ハワイ現地では、俺の親友とその彼女と合流予定だ。そいつには「めちゃくちゃかわいい彼女連れていくからな」と散々自慢してやった。
ホテルの部屋だって奮発した。なんたって有名人がお忍びで泊まるようなホテルだ。リンはまた大きな目をさらに大きくして子どもみたいに大喜びするんだろう。
俺たちの出会いはキャバクラだったけど、二人の関係は客とキャバ嬢なんかじゃない。俺を見るリンの瞳を見れば分かる。俺たちの関係はそれ以上だ。第一、そうでなければリンだってハワイ行きに賛成なんてしないだろう。
これが真実だ。
客
は?
現地で合流するのって、あんたの友達とその彼女なの?
なにそのWデート的な感じ。なにそのあんたの彼女的な立ち位置。草。草生えるわ。
は~?
部屋一緒?
ウソでしょ。なんであんたと一緒の部屋で過ごさなきゃならないのよ。話が違うんですけど!私たちはただのキャバ嬢と客の関係でしかないでしょーが。勘違いしないでよ。まぢないわぁ!
空港
出国当日。俺は今なぜ一人で空港にいるんだ。
「やっぱり行けません。ごめんなさい。」
そうリンから連絡が来たのはついさっき。それっきりLINEにも電話にも応答がない。LINEの連絡一つで終わりかよ!どうなってんだよ!
飛行機代、ホテル代。全部俺持ちなんだけど?あいつのパスポートまでなんで俺は面倒みたんだよ!俺はアホか?アホなのか?誘った時あんなに大喜びしていたのは一体なんだったんだよ!嫌だったなら初めからそう言えよ!
これだからキャバ嬢は!
いや、おいおい。待て待て。向こうでは俺の親友とその彼女がいるんだぞ。俺散々あいつに自慢したんだぞ。どんな顔して会えばいいんだよ。
これだからキャバ嬢はよっ!
太客
良いお客さんだからさぁ。断りづらいんだよね。だって断ったらさ、せっかく出来た太客失くすぢゃん?とか言ってたらもう出国日ぢゃん!
どーしよー。超やばい。どーしよー!
カレシにバレたら絶対キレられるしさ。いや、でもキレられる筋合いないけどね。実質私が養ってるようなもんだし。こないだも高いギター買わされたっけ・・。
いや、そもそも!佐々木と同じ部屋なんて絶対ムリだから!
ってゆーか、ここで断っても、佐々木のことだからワンチャン許してくれるんぢゃね?とりまLINEしとこ。連絡するだけまだマシだよね☆
あー。まぢダルいんですけどー。
現実
寒い。
寒すぎる。ハワイって常夏じゃなかったのか。バナナで釘が打てるわ。
広い。
リンが喜ぶだろうと用意したこの部屋が、ベッドが、広すぎる。
痛い。
親友とその彼女の哀れみの目が痛い。頼むからそんな目で見ないでくれ。見ないでくれよ!
あいつまじふざけんなよっ!
ブロック
は?佐々木、私のことLINEブロックしてんぢゃん。超生意気なんですけどー。あーぁ、やっぱりね。しくったぁ。太客逃したわぁー。出国当日のドタキャンはいくらなんでもやりすぎたか・・。
でも、ま。しゃーなし!また都合のいい客見つけよーっと。切り替え切り替えっ☆
はぁー。でもまた今日も鬱陶しい客相手に仕事かぁー。たるぅー。
眠らない街には魑魅魍魎が住む。
ハワイと二人のディスタンス ー終ー
あとがき
ある日、TwitterのDMに私宛の一本の連絡が入りました。それはある女性フォロワーさんからでした。彼女は私にこう言うのです。
「過去の自分の中にいた妖怪を成仏させたい。記事にしてほしい。」
今回のお話は、その女性のお話を元に書かせて頂きました。確かに、出国日当日のキャンセルは中々のもの。しかも良くしてくれていたお客様ならなおさら。
そう。今回の妖怪は女性。夜に潜む妖怪は決して男性ばかりではありません。
しかし、今回のようなケースは、夜の世界において全く珍しい話ではないでしょう。
お客様とキャバ嬢の心の距離感が日本とハワイくらいあることは、良くあること。
この記事を読んでくださっている男性の方。はい、そこの貴方です。女妖怪は男妖怪より手強く判別しづらいでしょう。
どうか、くれぐれもお気をつけて・・。
ミミィ
※登場人物は仮名です
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