夜に潜む妖怪たち-自撮りスキンヘッドの男 編-

夜に潜む妖怪たち−自撮りスキンヘッドの男編−

自撮りスキンヘッドの男 編

あなたは知っているだろうか。眠らない街には魑魅魍魎(ちみもうりょう)が住むということを。

そうだ。今見えているその人は仮の姿かもしれない。そして我々が隙を見せた途端牙を剥く。

私が過去に2年間だけ在籍していたキャバクラという世界。今日はまたそんな世界で出会った妖怪の話をしよう。

第三弾はこんな妖怪のおハナシ・・。

(参照:シリーズ第一弾第二弾

スキンヘッドの男

定期的に私を指名して飲みに来るスキンヘッドの男がいた。当時の推定年齢で35歳くらいだろうか。店の客層の中では若い方だ。スーツが良く似合う、細身で背の高いスタイルの良い男だった。

いつも数名の同僚と一緒に来ては、仲間との会話やお酒を穏やかに楽しみ、我々ホステスに対しても紳士的な態度であった。無理に店外へ誘ってくることも、強引な様子もない。俗に言う「酒の飲み方」のキレイな男だった。男は自分を指名してくれる客の中でも特に安心できるお客様だった。

連絡先

男はある日私にこう言った。

「ミミィちゃん、連絡先教えてくれない?」

その時、店で知り合ってから既に数か月は経っていた。このように何か月も店に通ってから聞かれるのは珍しいことだ。なぜなら通常、客との連絡先はすぐに交換するものなのだ。今後の客の指名を逃さないため、自ら積極的に連絡先交換をするホステスもいれば、客の方から言われて対応するホステスもいる。ちなみに腰掛アルバイトキャバ嬢の当時の私は、完全に後者のタイプであった。呆れるほどやる気の「や」の字もない。

話を戻そう。

「もちろんいいですよ。」

私は答えた。日頃の男の振る舞いから、断る理由などないのだ。恋愛感情こそないが、その男には好感を持っていた。やもすればこの好感が恋愛感情に変換される可能性も多いにあっただろう。

こうして私は男と、連絡先を交換した。

自撮り写真

連絡先を交換した翌朝早く、早速男からメールが届いた。私は寝ぼけながらメールを開く。本文にはこう書かれていた。

「ミミィちゃん、おはよう!こんなの送ると、迷惑かなぁ?」

本文の下には画像が貼ってあった。それは上裸のスキンヘッドの後ろ姿の画像だった。

え・・いきなり自撮り写真?しかもなんで後ろ姿で上裸なの・・・?

まだはっきりしない頭で混乱していると急に視界が開き、すべてが明確に見えてきた。

いや・・違う。これは・・、自撮り写真なんかじゃない!

送られてきた画像はいきり立った男のアレだった。スキンヘッドの男の頭部そっくりの、アレだったのだ。上裸なんかじゃない、そのものがすべて剥き出しになっているのだ。

ちょっ・・いや・・・まじでお前朝から何見せ〇×▽※◇◎×! F〇※▲□×っっつ!

脊髄をかき回すように男に対する罵詈雑言が体中を駆け巡った。

しかし、いやいや、これは何かの間違いだろう。ここは一つ冷静になるべきだ。これまでの男の紳士的な振る舞いから、私はそう思いたかった。

私は返信した。

「ごめんなさい。こういうのやめてほしいです。」

男はこう返してきた。

「そうだよね、、。ごめん。調子に乗ってごめんね。」

そうだ。何かの気の迷いだ。きっと魔が差したのだろう。もしかしたらこういうことをしたくなるのは石器時代からの男の本能のうちの一つなのかもしれない。・・・知らんけど。

一時の気の迷いなど、ここは水に流すべきだろう。私はこの件については忘れることにした。

うなだれた男

その翌早朝、また男からメールが届いた。寝ぼけ眼でメールを開くとまた画像がついていた。その画像は上裸スキンヘッドの男がうなだれた様子の写真だった。昨日の過ちを反省した自撮りを撮ったのか・・。

・・・ちがう。

きっとこれを読んでいるあなたは感づいたのではないだろうか。そう。写っていたのは人ではない。うなだれているように見える男のアレだった。一度ならず二度までも。今度は違うパターンで攻めて来たのだ。そしてメール本文にはこう書いてあった。

「こんな感じなら、大丈夫かな?こういうの見られてる思うと俺興奮しちゃうんだよね」

私は男にこう返信した。

「非常に困ります。もう二度とやめてください。これ以上送り付けてくるようならこちらも対応を考えます。」

この時、私の頭の中は冷静だった。気分はキリマンジャロの頂上付近だ。空気は非常に冷たく薄いが澄んで研ぎ澄まされている。空が藍色に近い。そう、頂上から見る空は濃い青色をしているのだ。こんな感覚を言葉にするならばこうだろう。

いや、お前のその性癖マジで知らんしそんで違うパターンなら大丈夫とでも思ったんかってゆーかまず朝っぱらからこんなもん送り付けるってどういう感覚?頭に虫でも湧いとんかて〇×▽※◇◎×!つーか朝とか時間関係ねーんだわ送ってくるその思考がサイコパスなんじゃF〇※▲□×っっっ!きっしょいのぉお前ほんま!

その後、男は二度と連絡してくることも店に現れることもなかった。

私はまたその日から何事もなく過ごした。あれは何か悪い夢だったのだろう。それにしても今日は湿気もなく涼しい。たまに吹く風が耳たぶをかすめてくすぐったい。秋が近づいてきている、そんな気がした。ふふと私は笑った。心は凪のような静寂の中にあった。

あ。

言い忘れたわほんでお前のアレほんまお前そっくりやな下半身に自分そっくりなやつ付けてご機嫌な男だなクソがっ!

眠らない街には魑魅魍魎が住む。

自撮りスキンヘッドの男編 ー終ー

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