少女Aの告白

少女Aの告白

1980年ー。

歴史的にみても少年犯罪の増加が著しかった1980年代。

それは、20歳未満のいわゆる少年少女たちによる凶悪犯罪が度々ニュースを賑わしていた時代だった。

罪を犯した少年たちは、俗に ”少年A” や ”少年B” などと呼ばれる。

そこに名前はない。

実は、そんな時代に生まれたこの私も後に ”少女A” として人前に出ることになる。

行き場のない、理由のない衝動を抑えられない者たち。
そんな人間がどのような生活を送ってきたのか。どんな罪を重ね、そして何を思うのか。

今回は ”少女A” として、そんな私の過去について記していきたいと思う。

目次

9歳 – 刀乱用

思い起こせばこれが最初の罪である。

当時私は小学3年生。若干9歳だ。
この頃、学校から支給される文具の中には小刀があった。鉛筆を削るためのものだ。

既に電動鉛筆けずりが各家庭にある時代にも関わらず、私が通っていた学校では、なぜか小刀で鉛筆を削る文化が残っていた。

ある日の午後、9歳の私はボーっと自宅のテレビを眺めていた。
右手には剥き出しの小刀を握りしめて。

目の前の机には鉛筆のけずりカスが散乱している。

ーあぁ。小刀、鞘に入れてしまわなきゃ。

鞘を手に取った私は、その時ふとこう思った。

ー普通に閉めるのつまんないな。

両手を使わず片手のみで小刀を鞘におさめたくなった私は、ソファーの上で姿勢を正し、鞘を軽く小刀に被せてから、素早く手首を180度変えながら下に向け真っ直ぐ振り下ろした。

その時。

い”っだあああああい”っ!!!

声にならぬ声で叫んだ。

視線を落としショートパンツから出ている自分の剥き出しの太ももを見ると、じわりじわりと透明な液体が傷口から染み出し、それは徐々に赤く染まろうとしているところだった。

鞘は振り下ろした瞬間、小刀から離れ、刃先がもろに自分の太ももに刺さってしまったのだ。

そう、私は自分の太ももに向け小刀を振り下ろしたのだ。故意に。そこに理由などはない。

えぇぇぇ〜・・。
なんこれぇ・・。
めっちゃ痛ぁ~い。
なんで鞘外れるん〜。
刀めっちゃ危ないぢゃーん。
刃物こっわぁ・・・。
テンション下がるわぁ!!

ちなみに傷口はかなり浅く、血はすぐ止まった。なぜならあらかじめ力を加減していたのだ。
こんなことになるような気がして。

その日から私は、小刀類の扱いには細心の注意を払うことになる。
だって切れたら痛いやん?

刀乱用、ダメ!絶対。

11歳 – 窃盗

私は11歳になった。
これくらいにもなれば、物欲が強くなる。

かわいい文房具、かわいい服、大好きなアイドルのグッズ、チョコレート、ポテトチップス、ジュースにアイスに・・・

あぁ、きりが無い。
しかし手元にお金もない。
いつものように諦めようとした時、耳元で悪魔が囁いた。

金、盗んじまえよ

その時、電話台の隅に置いてある母親の貯金箱のことを思い出した。

その貯金箱を手に取り、お金を入れる細長い穴から中を覗いてみると、結構な量の小銭と数枚のお札が入っているのが見える。

また悪魔が囁いた。

ちょっとくらいくすねたところで分かりゃしねぇよ

しかしその貯金箱は、壊さないとお金が出せないタイプのものだった。
簡単に出せないと思うと余計取り出したくなるのは、人間の性だろうか。

ーこの穴からお金、抜き出せないかな

抜き出すための道具を探していると、ペン立てに立てかけてある金属製のペーパーナイフが目に留まった。
薄くて長細い形状だ。

私は、貯金箱の穴が下にくるように持ち、細穴にペーパーナイフを入れ、穴を塞いでいる硬貨の端を押してみた。すると、寝ていた硬貨が立ちあがり、硬貨の向き次第では穴からストンと落とすことができそうなのだ。

私は興奮した。不思議な高揚感だった。

同じ体勢のまま何度かペーパーナイフを抜き差しすると、入り口に見えている硬貨は立ち、今にも落ちてきそうだ。しかし中々すんなりとは落ちてくれない。

私はペーパーナイフの先端に全神経を集中させた。

貯金箱は重い。腕がプルプルと震える。
苦しい。
気づくと私は呼吸を止めていた。

ゴトッ

突然固い音がした。

500円玉が細穴から落ちてきたのだ。私は500円玉を抜き出すことに成功した。

ーこんな簡単に・・・500円が手に入った・・・。

私は大急ぎで近くのコンビニへ走り、500円分のお菓子やジュースを買い込み、思う存分に食べた。

こうしてお金を抜き出すコツを掴んだ私は、事あるごとに貯金箱から不正にお金を出し、買いまくった。
ある時はおしゃれな文房具、ある時はお菓子、またある時もお菓子、そのまたある時もおかs・・・

そんなことを繰り返していたある日、2人の警察官が私の前に現れ、突然のことに呆然としている私にこう言った。

警察1(兄)「おかんの貯金箱から小銭がなくなっているらしい。お前何か知らないか?」

警察2(姉)「怒らないから正直に話してごらん?お母さんには言わないから・・・」

くっ・・優しい口調だが、犯人が私だと初めから決めてかかってやがる・・。
でも、母親に言わずにいてくれるなら・・。

動揺していた私は思わず答えた。

「・・・・・・・ごめんなさい。私です。」

はい。確保ー!

兄・姉「お母さーーーん!やっぱり(犯人は)この子だったよーーー!!!」

えぇぇえええ〜。すぐ言う〜。
言わん言ってたやんけ〜。
めっちゃテンション下がるわぁっ!!

そう。貯金箱の小銭が少なくなっていることに気づいた母親は、兄、姉にそれぞれ嫌疑をかけた。
あらぬ疑いをかけられた二人は必死の捜索の結果、真犯人である私を突き止めたのだった。

その後、私は強いソバージュがかかった年季の入った刑事(母)から取り調べを受けた。

ソバージュ刑事はただでさえ広がっている毛量の多い毛を更に逆立てていた。険しい表情と相まり、その様相はまさに発情期の雄ライオンのようだ。

ソバージュライオン刑事の尋問は厳しいものだった。初めから白状してるのに。

めっちゃ怒られた。白状してるのに。
めっちゃ泣いたし。
泣きすぎて頭痛かったし。
その後牢獄(納戸的なところ)に閉じ込められたし。
出ようと思えば出られたけど、怒られるの分かってたからちゃんとじっとしてたし。

そのうちトイレに行きたくなって、トイレに行かせてもらい、その後、大人しくすごすごと牢屋に戻ろうとしたら、深く反省していると思われたのか即日釈放となった。

模範囚で減刑だし。

釈放後、私は自分でもお小遣いの中から少しずつ貯金をするようになった。

小銭を入れるたび貯金箱を振って、重さや小銭のぶつかる音を楽しんだものだ。
貯まるのがうれしくて仕方なかった。

そして思った。

人がコツコツ貯めたお金、コソコソ盗るやつ人間じゃねーわ

盗み、ダメ!絶対!

14歳 – 薬乱用

これは結構衝撃的な話になってしまうかもしれない。14歳にして薬の乱用である。

多感な年頃になった私は、お気に入りのドラマを毎週食い入るように見るようになる。

・この世の果て(鈴木保奈美・三上博主演)
・人間・失格~たとえばぼくが死んだら~(KinKi Kids主演)
・家なき子(安達祐実主演)
・29歳のクリスマス(山口智子主演)

当時のお気に入りは上記の作品たちだった。

”29歳のクリスマス” 以外は、薬物やいじめ問題など、かなりセンシティブな部分に踏み込んでおり、当時これらは”問題作”などと世間から揶揄されることもあった。

さて、話を戻そう。そう、私の薬乱用について。

きっかけはテレビドラマであった。

前述の作品に限った話ではないが、テレビドラマの中では、女優が風邪薬などの錠剤を飲むシーンが出てきたりする。

私はその飲み方に釘付けだった。

まず錠剤を口に入れた後、水を口に含んで顔を上に向け錠剤を水とともにおもむろに飲み込む。飲み込む時には目を閉じ、短いため息とともに恍惚の表情。

私はその仕草にただならぬ大人の色気を感じ、憧れた。

ー 私も何か薬を飲みたい。あの女優のようにわざとらしく錠剤的な何かを飲んでみたい。

私は薬箱を漁った。
風邪薬や抗生物質はやけにたくさんあるが、健康な状態なのにそんなものを飲むのは流石に抵抗を感じた。

その時ふと目に留まった怪しい黒い瓶。太いボトル形状に主張の強い橙色の蓋。

正露丸だ。

ーこれなら腸に良いんぢゃね?

私はその日から毎晩寝る前に、正露丸1粒を水とともにわざとらしく飲むことにした。
時に鈴木保奈美のように。時に浅野温子や桃井かおりのように。
その時だけは憧れの女優になれた気がしたのだ。危険な高揚感だった。正露丸で。

そんなある日、私はいつものように正露丸を1粒取り出し飲もうとしていた。その時、たまたま通りかかった姉に見られてしまったのだ。

「なに、あんたお腹痛いの?」
「え?いや、、痛くないけど・・・」
「じゃぁなんで正露丸飲んでるの?」
「・・・・・・・」
「体おかしくなるからやめやー(名古屋弁)」
「・・・うん。」

姉が去り、手のひらに一粒残された正露丸、そして私。

急に虚しくなった。

いや、なんで私毎晩こんなの飲んでんの!?
キッショっ!!!そんでこれクッサ!!!!!

その日から、正露丸はお腹が痛いときだけ服用するようになった。その他の薬についても、用法容量は毎回しっかり確認し忠実に守っている。説明書きを隅々までチェックする徹底ぶりだ。

っていうか薬とかほとんど縁がない超健康体な子供だったし。

薬乱用、ダメ!絶対!

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少女Aとして

こうして猟奇的な行動を繰り返してきた私は、ついに ”少女A” として人の目に晒されることになる。

あれは中学3年生の冬。寒い日だった。

私の目の前には大勢の大人がいた。無数のカメラと大人たちの視線が私に集まっていたんだ。
照明まで当てられ、眩しくて目を開けられなかった。
私は立派な見世物だ。

すぅーーーーーー

私は深く鼻から息を吸い、目の前の大人たちにまっすぐ視線を送り、大きな声でこう言ってやったんだ。

「じゅげむ〜」

演目「寿限無(じゅげむ)」の劇中のセリフである。

この日は私達3年生による演劇会なのだ。

そう、この時の私の役柄が ”少女A”。
名前なんてない。

そしてこのしばらく後に少年法が厳罰化された。

厳罰化にはおそらく、私のこれまでの言動がきっかけになったとかならないとか、そんなわけないじゃんとか、社会問題になってないとか、なるわけねーじゃんふざけんなとか、言われたような気がするとかしないとか。

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あとがき

当時、私は寿限無のフルネームをクラスの誰よりも早く丸暗記して、誇らしげな気持ちになったことを覚えている。

まず暗記する必要なんて全くなかったけど。私以外覚えようとする子なんて誰もいなかったけど。

今でもフルで言えるし。
当時もその後も全く使う場面ないけど。

じゅげむ じゅげむ ごこうのすりきれ かいじゃりすいぎょの すいぎょうまつ うんらいまつ ふうらいまつ くうねるところに すむところ やぶらこうじの ぶらこうじ パイポパイポパイポのシューリンガン シューリンガンのグーリンダイ グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの ちょうきゅうめいのちょうすけ

「寿限無」より

大事なことだから2回言うけど。今でもフルで言えるし。

え。ちょっとまって。これなんの話だっけ? あぁ、そうそう。”少女A”

中森明菜の歌っていいよね。

− ”少女A” の告白・終ー

※この記事は第4回クソ記事選手権エントリー作品です

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